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浜の“宝物”を届けたい~オーシャンドリーム│愛媛県八幡浜市の水産加工会社
2024.11.28
何かと忙しい毎日の中、さっと調理できる美味しい食材がキッチンにあると嬉しいもの。愛媛県南西部の港町・八幡浜市にある「オーシャンドリーム」は、水揚げされた海の恵みをレトルト食品などに加工・販売する水産業者だ。豊後水道から瀬戸内海まで広がる豊かな漁場をバックに、確かな目利きで新鮮な素材を選び抜く。持続可能な海づくりを目指し、浜から街への橋渡し役として走り続ける社長・松浦康夫さんを訪ねた。
松山空港から高速道路を使って1時間と少しの距離。険しい峠のトンネルを走り抜けると、きらめく藍色の海を取り囲むような港町が見えてくる。海に面した山の斜面に広がるのは、石積みで作られたミカンの段々畑だ。黄色い果実を横目にウミネコが旋回し、大型トラックのエンジン音が港に鳴り響く。行き交う人の表情はどこか朗らかで、知らない顔ばかりなのになぜか心がほどけるような気がする。
八幡浜は四国と九州をつなぐ海の玄関口、そして西日本有数の漁港として古くから栄えてきた。大分県との間に広がる豊後水道の魚は、潮流が速くプランクトンが豊富で味に定評がある。よく締まった身に旨味を蓄えたアジやサバが知られているほか、伝統的なトロール漁業などによって年間200種類もの豊富な海産物が水揚げされる。
オーシャンドリーム社長の松浦さんは、魚の価値を一瞬で見極めるベテランの仲買人だ。眼光鋭い屈強な姿を想像して訪問したところ、思いのほか穏やかな雰囲気だったため緊張が解けた。「愛媛の中でも特に南の方は、ゆっくり、のんびりしていますからね」。工場の前を散歩していく保育園児たちに手を振りながら答えてくれた。
閉鎖中の学校給食センターを借りて稼働している工場は、港から車で数分という場所にある。撮影をお願いしたその日は、朝に水揚げされた鯛の下ごしらえや出汁作りの作業が進められていた。愛媛は天然マダイの漁獲量が全国トップクラス、養殖の生産量は全国一を誇る。「魚の王様と言われるだけあって人気ですね」と松浦さん。豊かな出汁の香りが工場に漂い、カメラを構えながら思わず唾を飲み込んでしまう。
松浦さんは県外への進学を経て、20歳で帰郷し漁協に就職した。しばらくして父が営んでいた水産会社が忙しくなり、仲買人の仕事を手伝うことになった。すり身や珍味の原料となる魚を九州等の県外業者に配送するほか、自社での加工品も地元業者に卸していたが、やがて漁獲量の減少を目の当たりにするようになる。
「毎年当たり前のように揚がっていた魚が、ある日を境にまったく見られなくなるんですよね」。「特に分かりやすいのはタチウオ。鱗がないので水温の変化に敏感なんです」。そうでなくても漁に出る船が減り続ける厳しい時代。「このままではいけない」と、強い危機感を抱いた。
2009年、転機が訪れた。市場に出づらい魚の活用を模索する愛媛県の事業への参画だ。担当者から「どうにかなりませんか」と相談されたのは、毎年7月の京都の祇園祭を境に価格が急落してしまうハモだった。松浦さんは子どもから大人まで骨を気にせず楽しめる「ハモカツ」を開発し、通年の人気商品へと成長させた。
そして2011年、レトルト食品を主力とするオーシャンドリームを創業する。「ドリームには“夢”のほかに、“宝物”という意味があるんです。八幡浜の大切な海の恵みを、後々の世代に残していきたいという願いを込めました」。
天然マダイを使った人気商品「愛媛真鯛の炙り鯛めしの素」も、限りある海の恵みを大切にしたいという思いから生まれた一品だ。きっかけは、新型コロナウイルスの影響で出荷が滞った養殖業者からの相談だった。「このままでは大量の魚の行き場がなくなってしまう」。急ピッチで開発を進め、家庭の炊飯器で米の一粒一粒に旨味が染み渡る鯛めしの素を完成させた。
鯛の目利きに話が及ぶと、それまで穏やかだった松浦さんの表情に少しだけ鋭さが加わる。「締めたての鯛は持ち上げるとブラブラと揺れ、透明がかったきれいな目をしているんです。時間が経つと目の色が白く濁り、エラが黒っぽく変化します」。「私たちが使うのは、朝に水揚げされた刺身で食べても美味しい鯛だけです」。
工場へと運び入れた鯛は三枚におろし、バーナーで皮目を炙って旨味を閉じ込める。丁寧に取った骨をスチームコンベクションオーブンで焼いて、香り豊かな出汁の素材にする。「化学調味料などの余計なものは入れていません」。南予地方では甘めの味を好む傾向があるが、全国的に喜ばれるお吸い物に合うような薄味に仕上げたという。
炊きあがった鯛めしを一口頬張ってみると、想像以上に力強い風味が感じられた。故郷の宝物を最高の形に変えて届けたいという、松浦さんの思いが伝わってくる気がした。
松浦さんは現在、海藻への食害が深刻な魚・アイゴの活用に取り組む。「美味しく加工できれば、海のためにも漁師さんのためにもなります」。目の前に広がる海は、地球温暖化やプラスチックごみ、そして海洋資源の乱獲など、地球規模の課題が山積する世界の海へとつながっている。「美味しい魚を次の世代にも残していきたいんです」。松浦さんは今日も港に立ち、故郷の恵みと向き合っている。
編集後記
愛媛の鯛めしは鯛の刺身を醬油ベースのタレに漬けてご飯に乗せるタイプと、焼いた鯛をふっくら炊き込みご飯に仕上げるタイプの二種類に分かれます。八幡浜での鯛めし事情を尋ねると、両タイプともに普段の食卓はもちろん、お祭りなどの行事食としても親しまれているそう。炊飯器に入れるだけで特別感を味わえる「鯛めしの素」をキッチンに常備しておけば、一息つきたい日の食事やおもてなし料理などにも重宝しそうです。
取材・文・写真:大隅 真理子